脈絡のない料理 vol.5
2022年11月12日 〜11月28日
会場 neutral(京都市北区)
人生って脈絡のない出来事の
連続だと思うんです
それが何であるかは
実はそんなに重要なことではなくて
その繰り返しや重なりが必要だから
僕らは延々と脈絡のないことを
繰り返すのです
neutral 北嶋竜樹
01 いとつきづきし
うんうん、似合ってる
よく似合ってるよ
よくなったね
とってもかわいいよ
朱漆椿皿:明治時代
02 野菊のきもち
ちょうど秋空の気持ちの良い日のことだった
ぼくは草刈りをする業者のお兄さんに挟まれながら
数分後には刈り取られてしまうであろう
野菊をせっせと摘んでいた
その時ふと思い出した歌がある
かつて漱石は同じような状況を
こんなふうに詠っている
─ 草刈の籃の中より野菊かな
まぁ美も醜もない感覚はどこか致し方ないのだ
つるつるてんになった賀茂川も
それもまた良しと思うことにしよう
七寸平皿:安藤由香
03 秋は夕暮れ
薄い桃色や淡い紫色のグラデーションが
順繰りに身体に染み込んでは消えていく
まるでぼくが紅葉しているみたいだった
光の雫は葉をつたい流れ落ち
あっという間に夕間暮れになった
何事もなかったかのように
冷たい空気が僕を取り囲んでく
須恵器六寸皿:松葉勇輝
04 檸檬と憂鬱
わたしが忌み嫌うものも
わたしが心底好きなものも
ほんとは同じもの
わたしを嫉み妬むのも
わたしを癒し慰めるのも
同じわたしでしかない
梶井は一顆の檸檬で
現実を心理で拭ったのだ
小さな爆弾が今を破壊し
わたしの中にある
憂さを晴らした
古常滑山茶碗:鎌倉時代
05 手紙
手紙はこちらに残らないからいい
メールやLINEみたいにいつまでも
目に止まっていちゃぁ心許ない
手紙はあちらに残るからいい
いつまでも残っていて欲しいと願うのも
それもまたいい
手紙はもらうと嬉しい
どんな顔で書いたのだろうとか
どんな場所で書いたのだろうとか
言葉の一つひとつから思いを馳せられるのもいい
手紙は書くのもいい
胸が締め付けられる思いも
淡いときめきも 全部見えないけれど
思いをしたためることができるから
手紙はいい、書くといい。
手紙はいい、送るといい。
白磁フラットプレート:打田翠
06 たちのぼる思いの中で
ひんやりとした小さな部屋が
ゆっくりと霞んでくる
ほんの少し心を躍らせては
最後の片付けをささっと終わらせる
聞こえてくるあの機械的な音さえも
愛おしく思えてくる
白磁平皿:黒田泰蔵
07 夜の光
たなびくように
奏でる言葉の調べ
汚れた心さえも
今となっては愛おしい
忘れはしないあの夜の光を
秋の蛍みたいに弱々しい光
冷えてきたね
さぁ帰ろう
高麗青磁 大鉢:14世紀頃
08 月うさぎ
昼の光を浴びたってほんとは変わりゃしない
君がほんとはずっとそこにいるのは知っている
幻みたいに消えたりするのは
月のうさぎがほんとは哀しい話だから
ねぇそうでしょ?
茶拭漆目弾き塗菓子椀:江戸時代