脈絡のない料理 vol.1
2022年3月15日 〜 19日
会場 濱口商店はなれ(京都市左京区)
人生って脈絡のない出来事の
連続だと思うんです
それが何であるかは
実はそんなに重要なことではなくて
その繰り返しや重なりが必要だから
僕らは延々と脈絡のないことを
繰り返すのです
neutral 北嶋竜樹
01 失われた時を求めて
フランスの文豪マルセル・プルーストは半生をかけてこの大作を執筆しました。それはたったひとつの些細な出来事から「無意志的記憶」に導かれるまま描かれる曖昧で確かな感覚です。
須恵器壺:古墳時代 須恵器豆皿:松葉勇輝
03 最古のたべもの
本当に最古かどうかはわかんないけどさ
最高のたべものらしいよ。
それはほんと。
古常滑山茶碗:鎌倉時代
02 日のあたらない空
白いって弱くて、白いって冷たくて、白いって軟らかくて、なんだか弱々しくてかわいそう。でも、かわいくて愛おしいのもやっぱり白よね。
堅手鉢:村山健太郎
04 装い
隠しきれない喜びや、覆いきれない思いが
かすかに漏れ出ている感じ。
そんな平静を装っている人を見るのが
わたしの密かな楽しみでもあります。
白磁皿:山本亮平
05 均衡と対比
それは混沌としながらある一定の秩序を持って保たれていて、そこにある対比はやがて混ざり合い調和するのです。
白釉鉢:山本亮平 片口:オノエコウタ
07 甘い夢
いつか吸った花の蜜のように淡く儚く
夢も記憶も季節の移ろいも
あっという間に消えていく
黒漆大平椀:明治時代
06 のびる
ずっと思ってたけど、あなた成長速度早すぎない?
食べられまいと勢いよく伸びるのね。
気持ちはよくわかるけど
のびたらのびたで用途があるのよ。ごめんね。
イギリスドーソン窯小皿:大正時代
08 かわいくてモテる人
ほんとはかわいくないかも知れないし、
ほんとはかっこいいかも知れないよ。
全然モテないかも知れないし。
まぁでもかわいいしモテるんだよね。
漆皿:小倉広太郎
後記
このことを思いついた時、私は「あぁこれでいいんだ」という安堵と共に、もしかしたらとんでもないことを思いついたのかも知れないとも思ったのです。そもそもわたしはいわゆる料理人とは全く違うのです。これは誤解なきよう伝えねばならないことで、作り手の自我からくる差別化とは全く別の次元の話で、違っていたいというような願望の話でもないのです。本来料理人は食事のための食事を作る人のことであり、規模や思いの大小はあれど、それは全て食べ手の味覚的幸福や空腹を満たすための満足感のためであり、健康であることや、環境に配慮していること、そして幸福感を得るためにその背景(生産者や食材)や物語(歴史や文化)に思いを馳せるのです。これは全くもって正しい道筋であり、これを体現できている作り手には私はいつも敬意を払っております。
では何が全く違うのか、それは調理という手段にアクセスするまでの思考が全くもって違っており、味覚からくるイメージはむしろ後方にあり、そのほとんどの始まりが言葉を紡ぐことから生まれます。今回この脈絡のない料理たちがそうであるように、私にとっての食の味覚体験は入り口にすぎず、味覚から派生する様々な感覚を拾い上げていくことがとても重要なことなのです。この会を終え、この脈絡のない思考から生まれるものを今後のわたしのライフワークとして定着していければと思っており、このことはまたどこかでお話ししていきたいと思います。
neutral 北嶋竜樹